商品コード: ISBN4-7603-0316-2 C3321 \50000E

近世植物・動物・鉱物図譜集成 第5巻 目八譜 (1)

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50,000円    (税込:55,000円)
近世植物・動物・鉱物図譜集成 第5巻 目八譜 (1)
〈2005年/平成17年11月刊行〉
武蔵 石寿『目八譜・原文篇』


解 説

(一)書誌解題
 本書は、国立国会図書館に原本が、東京国立博物館に、服部雪齋が原本から転写した副本が、それぞれ架蔵されている。
原本には一一六九種類、副本は一○七四種類についての記載があり、副本は、原本の巻十五の粘着類が省略されている。今回の複製にあたっては、国立国会図書館所蔵の原本を使用した。以下に、今までに知られているこの資料の所蔵機関について調査したので参考にされたい。「国書総目録」などを閲しても、この三種類が知られているのみである。
(イ)目八譜(武蔵 石壽 編、国立国会図書館所蔵、別六二一一、十五巻)
 原本に相当し、成立は弘化二(一八四五)年七月以降で、「凡例」を武蔵石壽が、序文を前田利保がそれぞれ執筆している。「凡例」の年紀は天保一五(一八四四)年三月と記されている。
(ロ)目八譜(武蔵 石壽 編、服部雪齋 写、東京国立博物館所蔵、和二三四一、十四巻)
 弘化二(一八四五)年七月以降に、服部雪齋により原本から転写された。一○七四種類を収録。
(ハ)目八譜(武蔵 石壽 編、国立国会図書館伊藤文庫所蔵、特七-二四○、一巻)
 巻一のみで、水谷助六が手写している。八一丁。
(二)武蔵石壽の人となりについて
 明和三(一七七六)年にこの世に生を享け、万延一(一八六○)年十一月二十五日に没している。享年九十五歳。幼少時は加藤吉辰、後に、加藤吉恵と名乗る。加藤は母方の姓と巷間流布されている。字は短甫。通称は、釜次郎、孫左衛門。石壽は号である。その他、竹石、玩珂亭、翫珂亭、翫珂翁、貝翁などと号した。法号は異功院徹心石壽居士を賜った。幕臣の武蔵義陳の家系に属し、寛政三(一七九一)年に家督を相続し、甲府勤番に就任。文政一(一八一八)年に新御番になり、江戸の牛込に住居を構える。文政八(一八二五)年、官職を辞し、以後、博物学の研究に励み、赭鞭会の一員として活躍した。「目八譜」は晩年の作品で、それまでに探求した和漢書の該博な知識や、長い間に蓄積されてきた観察能力などのすべてが融合し、かつ統合されて、その極みに達した傑作と言えよう。
(三)本書の内容に関して
 序文を記した前田利保がこの書の名付け親であることが明記されている。それに続く凡例において、武蔵石壽自身が緻密な構成のもとに、初学者にも理解できるように、丁寧に解説しているので、その内容を紹介してみよう。本文【『近世植物・動物・鉱物図譜集成 第五巻/目八譜(I)』(二○○五年十一月刊行)】の八-二十六ページを参照して頂きたい。
まず最初に、介の大分類として、①蛤、②螺、③貝、④蟹、⑤鰕、⑥亀、⑦鼈の七種類が定義される。また、肉を内にして、骨を外にする者が介の内容であり、寳貝、子安カヒの属種を貝と、両片が相合した者を蛤蚌と、巻たる者を螺?と、それぞれ呼ぶことを定義する。ここで言う「介」とは、肉を内にして、骨を外にする動物の総称であることを提示していて、非常に興味深い。また、紋彩文理の大小、殻の大中小をもって、名称を異にすることを定めている。そのために、同名でありながら別種の者が多いことも挙げている。動物の形態や生態を基軸にして分ける自然分類の手法が見てとれる。しかし、名称の選定にあたっては、土俗名や、他の動物、特に鳥類の名称をそのまま取り入れるなど、かなり恣意的な要素も多く、科学的な分類方法とは多少異なる面も多い。次に、合介、つまり二枚貝の十種類の型が図で示され、この貝の各部の名称が容易に理解できる構成になっている。解剖図も附されているので、内部の形態の解析にも非常に便利である。また、この書を書くために引用された文献の制約もあり、薬用及び食用になる介が多いことも附記されていて、総合的な「介類図鑑」の製作は近代以降の懸案の事項となるのであろうと推定される。最後に、介類の名産地二百五十九箇所が、國ごとに整理・分類されて記載されているのも大きな特色と言えよう。
 この凡例に続く本文の構成は以下の通りである。合計九百六十四種類が掲載されている。①巻一 合介(蛤蚌類 六十九種類)、②巻二 合介(蛤蚌類 七十三種類)、③巻三 合介(蛤蚌類 八十三種類)、④巻四 合介(蛤蚌類 四十六種類)、⑤巻五 合介(蛤蟶蛎類 六十五種類)、⑥巻六 巻介(螺形拳螺刺螺類 百三十三種類)、⑦巻七 巻介(圓螺? 百二種類)、⑧巻八 巻介(拳螺細螺?蜷蟹守 百四十七種類)、⑨巻九 巻介(笋筆芋身無芭片巻類 九十六種類)、⑩巻十(貝子子安貝宝貝 四十七種類)、⑪巻十一(無對類 五十七種類)、⑫巻十二(異形属 三十九種類)、⑬巻十三(諸介支流螺類? 八十一種類)、⑭巻十四(海燕海盤車類 十五種類)、⑮巻十五(粘着類)。本文においては、各介の名称が記載され、それに対応する漢名、漢字名、土俗名、方言名、古名などが列挙され、図や引用文献名とともに掲載・解説されている。図は精密な科学的な写生画で、形態の異なる複数の標本が丁寧に描かれている。

【図省略】

 現代の動物分類学においては、介類とは、軟体動物門(Mollusca)の中で貝殻を有する者の総称であるとされている。前掲の三種類の絵は、この書籍の解読をより理解しやすいことを目的として掲載したものである。軟体動物門を①無板綱、②多板綱、③単板綱、④腹足綱、⑤掘足綱、⑥二枚貝綱、⑦頭足綱の七綱に分類し、それぞれの形態を比較した。引用はいずれも『日本大百科全書(ENCYCLOPEDIA NIPPONICA 2001)』第四巻(小学館、一九八五)からである。先に引用した、武蔵石壽の凡例と比較しながら検討することをおすすめしたい。
 この資料を繙いてみて、古今の和書や漢籍に通じた編者の該博な知識と精緻な構成力には驚嘆する次第である。和歌、短歌、俳句は言うに及ばず、「源氏物語」「枕草子」「徒然草」などのあらゆる古典籍を理解していることが容易に読みとれる内容である。「貨幣」「玩具」「食料」「薬物」として活用された介類の多様性と豊富さが、この目八譜を優れた作品に仕上げた原因であることは否定できない。ただ、科学的な分類学の観点から見ても、介類に寄生する虫類までも介の範疇に入れたり、名称の不可解な命名法など、まだまだ残された問題は多いと言えよう。しかし、この時代において、この内容の書籍が発行されたことは非常に評価すべきであろう。科学のみの尺度で物事を評価する愚劣な行為は避けなければならない。日本文学、日本史学、中国文献学、日本及び中国の博物学や本草学の知見を分類・整理・統合した、優れた歴史的な資料として読まれなければならないというのが、編者の見解である。このような意味において、歴史学、経済史学、国文学、文献学などの視点から、ぜひ読み進めて頂きたいと言うのが編者の願いでもある。そして、そのような内容の資料であるというのが私見である。
 末筆ながら、この資料の複製や解読文の執筆や校閲などにご協力を頂いた国立国会図書館、ならびに、遠藤正治氏、浅見恵氏に、感謝の念を捧げる次第である。
 また、この論攷の執筆にあたっては、上野益三『日本博物学史(補訂版)』(平凡社、一九八六年)、磯野直秀『日本博物誌年表』(平凡社、二○○二年)の両書を参考にさせていただいた。両氏の該博な知識と緻密な展開力には感謝の念を禁じ得ない次第である。

 二○○八年六月
                                         編者識
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